星乱拳客伝 外伝 −三つ目−
迫り来る、毒サソリ・オタス。
振りかぶられる、必殺の右腕。
蘭丸はこの危機を脱する事が出来るのか?
第6章 game over ゲームオーバー
軽い脳震盪を起こした蘭丸だが。
「うーるーへーつってんだろ」
オタスの声が、頭上で響く。
次第に視野がはっきりしてくる。
右腕が、振りかぶられる...大きく。
そして。
グアッキ−ン
間一髪、右に転がって避ける。さらに、追い討ちをかけてくるであろう、右腕を避けるために転がる。が、
(こねえな?)
視野の片隅で地面に深々と突き刺さった右腕に、悪戦苦闘しているオタスが映っていた。
左肩に鉄杭を突き刺したまま、立ち上がる。
「ざまぁねぇーなー、馬鹿が」
言いながら、右の中段外回し蹴りを放つ。
「でぇリャー」
胸部、腹部、腰部の順番に回転運動を加速させながら、さらに右腿。そして膝を支点にして、脛から足先を地面に突き刺さっている右腕の内側に叩き込む。
みしぃぃ
めりぃ
くの字型に腕がへし折れ、腕の外側からは破損した、ケミカルマッスルが顔を覗かせる。
ぶん
頭上から、巨大アームが襲う。
オタスの胴体の下に潜り込みこれをかわす、蘭丸。
ガしゃん
地面に突き刺さった右腕が、自らの巨大アームに叩き潰される音が背中で聞こえる。
蘭丸は止まらない。
左肩の杭を引き抜き、右手で逆手に握る。
左腕の具合を確かめ、小さく頷いた時、蘭丸はオタスの背後に回り込んでいた。
そんな、蘭丸を胴体下部のカメラアイで捕らえるオタス。
自らは前進しつつ、巨大アームを引き戻し、蘭丸を叩き潰しにかかる。
しかし、蘭丸は。
「せいっ」
引き戻されつつある巨大アームの根元付近に杭を打ち込みながら、逆上がりの要領で回転する。『旋風』である。
[技の名前−『旋風』(つむじ)。小刀や暗器といった武器や『楔』などを相手の首、腕、脚などの部位に打ち付け、鉄棒の逆上がりの要領で全身を回転させそれらの部位を切り落とす技である。技の性質上、大型のビルドアームに対して使用する技で、『組み千切り』の一種である。又、『旋風』の動作で、首、肘、膝などの関節を極める『蔓』技を『旋風蔓』(つむじ・かずら)という。)
1回転。
更に、地上に降り立つことなく、半回転。
鉄杭をオタスのアームに残したまま、平べったい胴体の上に降り立つ。
今度は、胴体上部のカメラアイで蘭丸を捕らえるオタス。
引き戻しつつあった、巨大アームに急制動をかけ、自らの上に立ちはだかる蘭丸をなぎ払いにかかる。
ぎキッ、キぃーーーーーっ
ズズン
『旋風』の切断面からオイルを撒き散らしながら、巨大アームが崩れ落ちる。
「どーけーよぉー、おーりーろーよぉー」
身体を揺すって、蘭丸を振り落とそうとする、オタス。
しかし、馬乗りになった蘭丸に落ちる気配はない。
「るっせぇんだよぉ」
ガッキ
力まかせに拳を打ち込む、蘭丸。
更に、拳を打ち込む。
バキッ
カメラアイが砕ける。
更に、拳。
拳、拳、拳。
拳、拳、拳、拳、拳。
ビスが飛び、硬質ゴムのパーツが引き千切れる。
更に、拳、拳、拳。
拳、拳、拳、拳。
拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳。
オイルが流れ出し、上部装甲に亀裂がはしる。
更に、拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳。
拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳、拳・・・・・・。
いったい、何発の拳を叩き込んだのだろう。
大きく内側にたわんだ上部装甲の端に手をかけると、一気に引き剥がした。
ぎぎっ。
カシャーン。
ほとんど抵抗無く、引き剥がされた上部装甲が、地面で乾いた音を立てる。
上部から、丸見えになったコックピット。その中から、ちらっと、蘭丸を見上げた分厚い黒ぶち眼鏡をかけたおやじは、何故か深い溜め息をつき、再び視線を何も映っていないモニターの方に移すと、ぶつぶつ独りごとを言いはじめた。
(けっ)
蘭丸は興味を失ったかのように、スクラップと化したビルドアームから飛び降り、退場口へ向かう。
静まり返った、闘技場。その静寂を破るように、興奮した客が、「殺せ」コールを始めた。
「こーろーせ、こーろーせ」
殺気立つ闘技場。
しかし、それを掻き消すように湧き上がる、拍手、歓声、奇声、口笛。「教えたとうり」だの「あれは、俺の息子だ」だの、嘘八百並べ立てている客もいる。
次章予告
闘技場中の歓声を背中に受けながら、
何のアピールをするわけでもなく、
薄暗い退場口に消えていく三つ目の魔人。
その沈黙は何を物語るのか、
熱気でむせ返る闘技場にそれを知る者はいない。
外伝 第1巻
次章:終 章 in the dark 闇のなかで
『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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