星乱拳客伝 外伝 −三つ目−

そして今夜、
一人のヒョウ師が闘技場に立つ。
自分の力を試す為、
自分がヒョウ師である事の意味を確かめる為。

第1章 in the colosseum 闘技場にて


オイル、化学薬品、鉄の焼ける匂い。
薄暗く、じめついた控室。広さは、小さな体育館ほどもあるだろうか、そこに数台のビルドアームと歩ヒョウがうずくまっていた。
この控室への入口は3つあるが、出口は1つである。その出口の上に、元はグリーンであったろう色褪せたクリーム色のライトと、数世紀前に使われていたようなメガホン型のスピーカーが、ぶら下っていた。
そのクリーム色のライトにジジッと灯が点り、スピーカーから割れた音が響いた。

「ザッ・・ランマル(蘭丸)出番だ、闘技場へ向かえ。相手のデータは、渡してあるとおりだ。あの手のビルドアームはタチが悪いからきをつけてなっ ザザッ」

脂ぎっているくせに、何処か具合が悪そうな3流マッチメーカーおやじの顔が浮かぶ。

(俺の出番だ)

他のビルドアームとそのパイロットたちの辛気臭い視線を受けながら、闘技場へ向かう。
出口を出ると通路はすぐ右に折れる、その先の階段を登り切るとそこは・・・・。
一瞬目が眩む、無数のスポットライト、観客の歓声、今まで味わったことの無い、昂揚感が蘭丸を包む。

「レフトコーナー、本日初登場、ランメール」

女声のアナウンスが蘭丸の名前を間違えてコール。苦笑しながら軽く右手を上げる。

(俺の歩ヒョウは、青銅色を基調とした歩ヒョウで『レン』と言う、至ってシンプルなものだ。特徴といえば放熱装置を兼ねた肩まである銀髪を束ねてある事と、額についている目だろう、このもう一つの目、相手の気配を読む為のものだと師匠に言われた事があるが、今までそんな経験は皆無だ、案外ちょっと付けてみただけなのかもしれない)

「ライトコーナー、5戦5勝、ブラッディーオタス」

いかつい、恐らくリングネームであろう名前を持つ相手は、毒々しい黒地に赤の斑点でペイントされた、6本足の大型ビルドアームだった。
前足を交差させて蘭丸の時に倍する観衆の声援に応える。その形は、6本足のカニかクモのようであった。
両者のコールに続いて、試合前のルール説明(どちらか一方が戦闘不能あるいは試合を放棄した時点で勝敗が決まる、また武器の使用はその時々で可不可が決定される、今回は不可。飛び道具は基本的には禁止等)、試合のオッズ発表(8対1.5で相手が優勢)などが行われる。
その間に、蘭丸は周りの状況を確認した。足場は当初、平らであったろう凹凸のあるコンクリート、フィールドは楕円形で、直径は80mと50mくらい、お互い楕円形の短い直径の端に位置していた。
観客席を見上げると闘技券を握り締めた客、叫んでいる客、他の客と何やらもめている客。さらに上の方にあるボックス席では、豪華な料理と高い酒でみせもの見物としゃれ込んでいる事だろう。
そのさらに上にはドーム状の屋根、その中央には巨大ディスプレイがぶら下っており、オッズや各種の情報、闘技の映像、リプレイ映像などが映しだされる。
一通りの段取が終わった後で、観客の声が一層高まった。

「Ready」

「Go !!」

青銅の魔人は軽くステップを踏みながら、巨大毒グモはぎくしゃくと前に出てきた。




次章予告


無数のスポットライトと、歓声のうねりの只中に立つ、2体の巨大機械。

一方は、三つ目の青銅魔人。

もう一方は、巨大な斑(まだら)毒グモ。

オタスとの圧倒的とさえ思える体格差を覆すことが出来るのか蘭丸よ。

最後に立っているのは。そして、倒れ伏しているのは。

果たして・・・。

外伝 第1巻
次章:第2章 the first fight 初陣

『文句(もんく)があるなら、かかってこいよっ』
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